面倒くさがりなりに、優雅をめざす――シングル・ライフ

リアルでは口にしづらい、お財布事情や断捨離、日々の生活、趣味などあれこれ。

試写『TAR/ター』

仕事は、どこで何につながっているかわからない。
めぐりめぐって、映画『TAR/ター』の試写を見に行ってきました。
(ネタバレが多少ありますのでご注意ください)



華麗な経歴をもち、女性で初めてベルリン・フィルの首席指揮者になったリディア・ター(架空の人物)。栄光と権力の頂点にいるかと思われたが、作曲に行き詰っていたある日、かつて指導していた若手女性指揮者の自殺の知らせが。どうも原因は、ターのハラスメントらしい。じわじわとターは追い詰められていき……

というお話。


音楽について、くわしいことは語れないし(好きなエルガーのチェロ協奏曲を「そこで使うかーっ」と思った程度)、業界についてはもっと知りません(冒頭でちらっと語られる、有名指揮者のセクハラの話は聞いたことがあります)。
そういう、ちょっとクラシック音楽が好きレベルが観たこの映画は、
「仕事をめぐる、人としての思いやりと自業自得についての寓話」
という印象でした。


いくら仕事で追い詰められているからといって、同僚や家族をないがしろにしてはいけないし、一番身近な人の気持ちを踏みつけにするようでは、本当にピンチのときに誰も助けてくれない、という。
たとえ正しかったとしても、正しいからといって何を言ってもいいわけじゃない。よけいに気を使わないといけない場合がある。部下をしかるときとか、人を異動させる(というかクビ……)ときとか。


音楽も演技も、とにかく凄い迫力なので、映画館でみるべき映画。
これを近所迷惑にならない音量(とかの話が作中にも出てくる。音楽家にとっては美でも、一般人には近所迷惑……)で見たらもったいないと思います。
クラシック音楽がお好きな方なら、お勧めです。


最後、ターは初心に帰り、ハラスメントの再発はなくなることを暗示するような場面があります。
ただ、ターのこの性格は変わるだろうか。それはわかりません。
わたしの大好きな小説に、アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』という、衝撃的な名作があります。
このヒロインは、正しいと信じて他人の気持ちをないがしろにして生きてきて、ある日自分が完全に間違っていたことに自ら気づき、生まれ変わるけれど――という話なのです……。



リディア・ターは何歳くらいだろう。
50代かな、という気がしました。