面倒くさがりなりに、優雅をめざす――シングル・ライフ

リアルでは口にしづらい、お財布事情や断捨離、日々の生活、趣味などあれこれ。

何回目かの読了:宮部みゆき『火車』

この本のことを書こうと思っていたら、ここ数日で複数の方がやはりこの本を読んでいらっしゃいました。
すごい偶然だし、それだけ人気の、名作でもあるんですね。
好きな本のなかでも、万人にお勧めできる本の一冊だと思っています。



人生の節目には、この本を読み返すことにしていて、それ以外にも、ちょっと最近お金使いすぎかなーと思う時には、自分への戒めのように、やっぱりこの本を読みます。
あらすじは、怪我で休職中の刑事が親戚に頼まれて、失踪した婚約者を探し始めたら、そこには複数の人間の金銭問題(自己破産)がかかわっていたことがわかって――という話です。


小説は、読む人によって読みどころというか着目点はいくつもあると思いますが、個人的に、この本で心に響くことが二点あります。


ひとつは、メインテーマになっているお金の話。
主人公は人探しのために、結果的に二人の女性の人生をたどることになるわけですが、そのうちのひとり、カード破産した女性が弁護士に、


「どうしてこんなに借金をつくることになったのか、あたしにもよくわかんないのよね。あたし、ただ、幸せになりたかっただけなんだけど」


と言うんです。
彼女は、故郷でつらい生い立ちをして、そこから逃げるために東京で就職し、社員寮がひどかったので、マンションでひとり暮らしを始めるのですが、のちの同僚に言わせるとそのマンションは「家賃がバカ高かった」のでした。
そういうところに住めばきっと、ちょっとおしゃれな家具やかわいい小物が欲しくなったことでしょう。
寮なら備え付けのものも、買わなきゃいけない。必要だから――
でも、必要だろうと無駄づかいだろうと、お財布への負担は同じ。


わたしは、「必要だから」と買いがちだし、「長く使うものだから」とお金をかけがちなタイプです。
だから、折々にこの話を読み返しています。
住宅ローンとも関係のある話なので、いまのマンションを契約するときにも読んだものです。


この物語のもうひとつの読みどころは、男女関係のカタログだと思います。
出てくる登場人物の大人が全員、それぞれ違う男女関係を背負って描かれているんです。
主人公は、愛妻を事故で失った父子家庭。
依頼人は、婚約者に逃げられた、自信たっぷりでややわがままな若者。
主人公の相棒のような刑事は、一番親しい女性とは仲が良すぎてきょうだいのようになってしまい、自分のかわりに親友を紹介する。
「加害者」が付き合う男性は、職業こそ違え、同じような性格で、同じように女性に操られる。
主人公と同じマンションに住む、ちょっと変則的な共稼ぎの夫婦は、とっても魅力的。


――と、いろいろ書いてきましたが、読むたびに思うのは、自分のせいではない借金のせいでここまで追い詰められてしまった、もうひとりの女性は、じゃあどうすれば助かったのだろうか、ということ。
できれば、この本を読んだ専門家に、どこかで語ってほしいかな。